2014年8月28日木曜日

アジアの海洋トラブルは棚上げ不可能な紛争:膨大な潜在的資源規模

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ロイター 2014年 08月 27日 15:53 JST
John Kemp
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPKBN0GR0E220140827

コラム:アジアの海洋紛争は棚上げ不能「創造的」外交を

[ロンドン 26日 ロイター] -
 南シナ海と東シナ海において中国が主張する領有権の範囲をめぐり、米国と中国は、双方にとって有害な対立へと向かっているように見える。

 中国としては、石油その他エネルギー全般で世界最大の輸入国となっている以上、国内からのエネルギー供給態勢を拡充することの緊急性は一段と高まっている。
 そのため、何らかの法的もしくは外交的手段を通じて領土紛争が解決できるまで、中国が南シナ海と東シナ海でのエネルギー開発や生産を凍結すると期待するのは非現実的だ。

★.問題の一端は、西側のアナリストや政策担当者がいまだにこれらの地域の戦略的重要性を適切に評価できないことにある。
 中国と近隣諸国の海洋紛争は、無人島や水面下の環礁、歴史的な漁場で発生し、第2次世界大戦に伴う未解決の外交事案に由来するケースもあると特徴づけられている。

 だが現実は、こうした紛争の核心は南シナ海と東シナ海に眠るとみられる大規模な石油・天然ガス資源の支配権だ。
 これらの石油・ガス資源は、同地域のすべての国にとって経済的発展に不可欠な要素となり得る。

 中国が南シナ海を同国にとって台湾やチベットと同様に「核心的利益」(妥協の余地のない国益)に含まれると主張し始めた際に、米国の外交官は落胆し動揺したと伝えられる。

 しかし南シナ海や東シナ海の石油・ガスが持つ大きな開発余地を踏まえれば、この問題を、いつまでも対応を先送りできるような些細な案件として処理するのが不可能なのは一目瞭然だ。

■<棚上げ不可能な紛争>

 米外交官は時折、中国と近隣諸国の紛争を棚上げしたいと考えている様子だが、この態度は無益で危険といえる。

 ヘーゲル米国防長官によると、米国は南シナ海と東シナ海のいずれでも、対立する領有権の主張のどちらにもくみしないとしながら、紛争が「国際法に則って」平和的に解決されるよう望むとしている。

 今年5月にシンガポールで開催された地域の安全保障をめぐる会議では、ヘーゲル長官は中国が南シナ海で領土的主張を強めていることを、一方的な行動で地域を「不安定化させている」と名指しで批判した半面、中国の対立相手については特に非難しないという態度を示し、中国が猛反発した。

 さらにデンプシー米統合参謀本部議長が、米軍の制服組トップとしては1971年以降で初めてベトナムを訪問し、中国側は米国が包囲網を形成し、ひそかに中国と紛争中の諸国を支援しているのではないかとの疑念を強めた。

 米国は、中国が東シナ海に設定を宣言した防空識別圏を認めることを拒絶するとともに、尖閣諸島について領有権をめぐる見解は明らかにしなかったものの、日米安全保障条約の適用対象に含まれると主張した。

 もっともこうした領有権問題に踏み込まず、外交的解決の見込みが薄い紛争の現状維持を目指そうとする戦略は危険で、対立が深刻化する恐れがある。
 現状維持は、決して事態が安定しているわけではないからだ。

■<膨大な潜在的資源規模>

 西側のアナリストや政策担当者は、紛争地域の石油・ガス資源を重視しないきらいがある。
 ただこれは恐らく、すべて開発された場合に回収できるとみられるこれらの資源規模を過小評価しているせいだろう。

 南シナ海と東シナ海にはともに、古代の海底や湖に蓄えられた泥や有機物質などの堆積層がいくつも重なった海盆が存在し、既に相当量の石油やガスが発見されてきた。

 米国地質調査所(USGS)は2010年、南シナ海にはまだ発見されていない原油約110億バレルと天然ガス145兆立方フィートが存在すると推定している。

 世界全体でみればこれはそれほど大規模ではないとはいえ、中国にとってはずっと重要性が高い。

 USGSの見積もりは沿岸地域を除外し、紛争の中心である南シナ海中央部の島しょや環礁の近くの深海に眠る資源も含まなかった。
 南シナ海はまだ比較的開発されないままの状態にあり、これからかなりの規模の資源が発見される余地が残されている。
 そして中国の石油会社の見積もる資源量は、西側アナリストよりも大きい。

 中国と日本が対立する東シナ海に存在する可能性のある炭化水素の規模はずっと小さいことは良く知られている。
 だが相当程度の石油・ガスを回収できると信じるに足る十分な根拠はある。
 いくつかの油田やガス田も既に発見されている。

■<法的解決>

 超深海の掘削技術進展により、遠海油ガス田の探鉱・生産の余地はかつてないほど拡大し、南シナ海と東シナ海における領有権の対立も現状維持のままではすまなくなりそうだ。

 米国の外交官は、紛争は国際法や規範、外交交渉で解決可能と示唆しているものの、具体的にどのように達成していくのかは提案していない。

 一連の紛争の中で、フィリピンは国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき、中国を仲裁裁判所に提訴した。
 中国と近隣諸国の紛争解決にはUNCLOSが適切な法的枠組みだと多くの外部専門家は指摘してきた。
 しかし実際には、主権が確定している地域における関係者の船舶航行権や漁業権などを判定するUNCLOSは、領土主権自体の争いには役に立たない。
 また中国は既に、仲裁裁判所が乗り出すことを拒否しており、この取り組みが失敗に終わるのは目に見えている。

■<創造的な外交>

 紛争当事国の外交担当者は今、自らが紛争地域を歴史的に支配してきたという主張を裏付けるのに役立つ古文書や書簡、芸術作品などの発掘に余念がない。

 それでもこうした歴史的な調査が双方納得するような解決につながりそうにないのは、英国とアルゼンチンのフォークランド(アルゼンチン名はマルビナス)諸島をめぐる対立がなお続いていることからも明らかだ。

 唯一の現実的な解決策は外交だ。
 南シナ海と東シナ海の沿岸諸国は、安全保障上の利益のために主権を分割し、共有しなければならない。
 そして平和的な資源開発を認める必要がある。

 こうした資源開発の共同管理の事例はたくさんあり、スピッツベルゲン島周辺の北極海におけるロシアとノルウェーや、中立地帯を設定したサウジアラビアとクウェートなどが挙げられる。

 日本と中国も最近対立を深める前には、東シナ海の日中中間線付近にあるガス田(日本名は白樺、中国名は春暁)の共同開発に合意していた。

 特に米国にとっては、外交的解決に向けた課題は、すべての当事国にメリットがあるような方策を探り出す手助けをすることにある。

 ところが米国はその代わりに、あらゆる当事国の態度を硬化させ、はっきり定義されない法的な手続きが一段落するまでは紛争を棚上げできるとの見解を示してきた。

 この戦略はうまく働かず、地域の緊張を和らげるどころか高め、当事国は妥協と共通の解決策を模索せずに自らの要求を極大化してしまう。

 今こそ西側の政策担当者は、南シナ海と東シナ海における石油・ガス資源開発が必要不可欠かつ望ましいものであると認めなければらなない。
 石油・ガス開発は、対立と競争をもたらすよりも、協力を進める安定した力になるはずだ。

(*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)




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