2014年11月17日月曜日

高速鉄道争奪戦(5):ウルムチ南からハミまで530キロ、途中駅はたった3駅、膨大な赤字

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●CHR5型



サーチナニュース 2014-11-17 12:23
http://news.searchina.net/id/1549861?page=1

新疆で高速鉄道が開業、ウルムチ・ハミの530km
・・・17年には北京まで開通

 甘粛省蘭州と新疆ウイグル自治区ウルムチを結ぶ高速鉄道「蘭新鉄路第2双線(蘭新高鉄)」のウルムチ・ハミ間530キロメートルの営業が16日に始まった。
 鉄道部門によると、同線は2017年に全線開通し、蘭州を経由して現在41時間を要しているウルムチ・北京が16時間で結ばれることになるという。
 中国新聞社などが報じた。

 16日に開通したのは、ウルムチ南駅から、トルファン北駅、ピチャン北駅、トゥハ駅を経てハミ駅に達する路線。
 最高時速200キロメートルで運転し、ウルムチ・ハミをこれまでの5時間から3時間に短縮した。
  「蘭新鉄路第2双線」は2017年に全線開通の予定。
 起点/終点のウルムチ南と蘭州西艦の総延長は1776キロメートルで、北京と上海を結ぶ京滬高速鉄路の1318キロメートルを抜いて、「世界で最も長い高速鉄道路線」になるという。

 16日に開業したウルムチ・ハミ間は当面、CHR5型4編成で営業する。CHR5型を製造するのは中国北車集団傘下の長春軌道客車だ。
 同社客車開発部の朱彦副部長は、CHR5型の列車先頭部分について「空気抵抗を減らすため、政体工学を用いて流線型にデザインした」と説明。
 「側面から見ると、今にも行動を起こそうというワニに似ている」、
 「ワニは獲物を襲う瞬間、驚くべき速度を出す。車両先頭部分は、このワニから霊感を得た」
と述べた。
 CHR5型はフランスのアルストム社と提携して導入した高速鉄道車両で、旧フィアット社の「ペンドリーノ」ETR600型電車をベースとした動力分散方式による高速電車車両。
 CHR5型とETR600型の違いは、車幅を拡張して1列に最大5席を設置できるようにしたことなどだ。

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◆解説◆
   ウルムチ・ハミ間の開業で気になるのは、収益性の問題だ。
 現地は、「砂漠の中にオアシス都市が点在する」という人口密度の少ない地域だ。
 ウルムチ南からハミまで530キロメートルあるのに、途中駅は3駅しか設けられていない。
 東海道新幹線の東京-新大阪間514.4キロメートルで、途中に15駅が設けられているのとは対照的だ。
 17日現在、ウルムチ・ハミ間の運行本数も1日に4往復だけだ。
   関係者は、高速鉄道路線の建設から開業への流れにともない、ウルムチ市内の高鉄新区にはコカ・コーラやフォルクスワーゲンなど大手国際企業18社が進出を決めるなどで、同区への投資総額はすでに350億元(約6611億円)を超え、最終的には23万人の雇用が発生する見込みと説明。
 「蘭新鉄路第2双線」の計画が、内陸部経済の活性化を目指す「政策路線」であるのは間違いないが、
 一方で、鉄道事業を担当する国策会社である
 中国鉄道総公司は2014年上半期(1-6月)に同社の負債は3兆4000億元(約58兆円)
に達した。
 同半期における税調整後の赤字額は53億元(約900億円)になるなど、
 「国家のために奉仕する」宿命を持つゆえの、膨大な赤字体質が染みついた格好だ。



JB Press 2014年11月27日(Thu)  弓野正宏 (早稲田大学現代中国研究所招聘研究員)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4486

中国のなりふり構わぬ高速鉄道外交
鼻息荒い海外進出の陰にリスク顕在化も

 中国の習近平国家主席は11月16日、オーストラリアのブリスベンでブラジルのルセフ大統領と会談した。
 G20首脳会議に合わせ開催されたBRICS首脳会議だが、会議期間中にルセフ大統領と7月に続いてわざわざ再び会談したのだ。
 両首脳は太平洋と大西洋(ブラジルとペルーを結ぶ国際鉄道、通称「両洋」鉄道)を結ぶ鉄道建設推進を再確認した。
 「両洋鉄道」の建設は既に習主席が7月にブラジルを訪問した際にブラジル、ペルー両国首脳とともに共同声明によって確約していたものだ。

 中国は現在、世界各地で高速鉄道建設に携わっている。
 東南アジア(タイ)や中央アジア、中・東欧諸国、アフリカ、そして中南米だ。
 インドでの受注にも乗り気である。
 今回は習近平主席自らルセフ大統領との会談で再確認したが、李克強首相が外遊に出る際にはほぼ毎回高速鉄道の売り込みを図っており、「高速鉄道セールスマン」と揶揄されるほどだ。


●新華網・『寰球立方体』(410号) http://www.xinhuanet.com/world/jrch/410.htm

 このように中国が世界各地で力を入れて建設を進める高速鉄道だが、必ずしも全てが順風満帆ではない。
 野心的で活発な海外進出の陰でリスクも顕在化しつつある。
 ミャンマーでは住民の反対に遭い計画が頓挫し、メキシコでは入札プロセスに不正があったとして白紙撤回され、大統領が糾弾される羽目になっている。
 トルコでは開業当日に故障が発生して運転が一時停止した。
 そしてトラブルはそれに止まらない。
 中国国内で2011年7月に追突事故が起きて大勢の死傷者が出たが、今ではほとんど触れられず、教訓として伝えられることもなくなっている。

 そこで今回は中国が世界で進める高速鉄道建設プロジェクトの全体像を見るべく、中国国内外の論評を紹介したい。
 一つは、新華社のネット版『寰球立方体』(410号)が組んだ特集
 「中国高速鉄道が海外に出て“さなぎが蝶に”」(11月19日)
であり、
 もう一つは華僑サイトの博訊網に掲載された
 「中国の高速鉄道には本当に一生懸命」(11月8日)
という論評である。
 前者は政府系通信社ということもあり、プロジェクトにはもろ手を挙げての絶賛であり、これまで配信した記事15本をまとめて載せている。
 後者は前者と比べれば慎重でリスクも指摘している。

■自信満々な世界進出の目論み

 『寰球立方体』高速鉄道特集のイントロは次の言葉から始まる。
 「安全で信頼性があり、先進的技術でコスパは高い。
 運営の経験は豊富であり、中国の高速鉄道はその独特の優勢を誇り、世界から注目を浴びている」。
 温州市で起きた追突事故など忘れ去られたかのような書きぶりである。

 記事によれば、習主席は11月16日にルセフ大統領と会談し、「両洋鉄道」建設において実質的な展開に期待を示したという。
 昨年10月以降、李克強首相はタイ、オーストラリア、中東欧、アフリカ、英国、米国等を訪れ「高速鉄道」外交を展開してきた。
 「中国鉄道プロジェクトには勢いがあり、挫折に遭っても『海外に打って出る』勢いは防げず、ついに「さなぎが蝶になり」世界の高速鉄道時代をけん引するまでになった」
と評価している。

■「シルクロード経済ベルト」と高速鉄道


●『寰球立方体』(410号)「両洋鉄道」(左下) http://www.xinhuanet.com/world/jrch/410.htm

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 11月16日午前11時、汽笛を鳴らし、満員の乗客を乗せた始発列車がウルムチ南駅を出発した。
 これにより蘭州と新疆ウイグル自治区を結ぶ、蘭新高速鉄道が開通した。
 中国の西北地域で高速鉄道時代の幕開けを迎え、中国と中央アジアの距離が縮まった。
 この度開通した蘭新高速鉄道はウルムチとハミを結ぶ530キロの区間である。
 ウルムチ南、トルファン北、ピチャン北、トゥハ、ハミの5駅が開業した。全線開通すれば蘭新鉄道は全長1776キロ、甘粛省、青海省、新疆ウイグル自治区を縦断する世界で最も長い高速鉄道になる。
 ハミから蘭州までは今年末に開業予定だ。
 ウルムチから北京までは2017年に開通予定で、それまでの41時間から16時間に短縮される。

 蘭新鉄道は新疆ウイグルにとって唯一の鉄道路線であり、輸送能力は年間7500万トンと既に飽和状態に達しつつあった。
 そこでもし高速鉄道が開通すれば旅客と貨物が分散可能になり、毎年1億5000万トンの輸送量が見込まれる。
 また中国と中央アジア、西アジアとの距離が縮まり、「シルクロード経済ベルト」の中心として新疆の経済社会発展にも大きな潜在力と空間を提供すると期待される。
 新疆の石炭を輸送する時間やコストも削減できると見込まれる。
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■トルコ高速鉄道で「シルクロード」に「融合」

 また、記事によればトルコの首都アンカラからイスタンブールまでの高速鉄道が7月25日に開業した。
 全長533キロのうち、中国企業、中鉄建トルコ支社が請け負ったのは158キロ分。
 37のトンネルや、10キロもの橋梁もあり、伝統的な爆破工事が行えず、掘削を行うしかないなど困難も少なくなかったという。

 中国が提起する
 「一帯一路」(シルクロード経済ベルトと海のシルクロード)構築
 トルコの「東西鉄道路線」構想
が期せずして一致したこともあって高速鉄道建設が進められてきたが、記事中でトルコ外務省のエルシン局長は、
 「トルコ側は積極的に『一帯一路』と融合させてより多くの実質的な発展を期待している」
と表明した。

■現在計画中の中国による高速鉄道構想

 『寰球立方体』は『京華時報』が5月に掲載した中国の高速鉄道プロジェクトの全体像についての紹介も載せている。
 それによると現在計画中の主な高速鉄道構想は大別して次の5つの路線がある。

〔1〕:
 A:ユーラシア(欧亜)高速鉄道(ロンドンからパリを経由し、ベルリン、ワルシャワ、キエフを経てカザフを通るルートと、
 B:極東ハバロフスクに続く二つのルート)[国内部分は既に着工、国外路線は交渉中]

〔2〕: 中央アジア高速鉄道(ウルムチから、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イラン、トルコ等を通って、最終的にドイツに到達)[国内部分は推進中、国外路線は交渉中]

〔3〕: 汎アジア高速鉄道(昆明からベトナムを通り、カンボジア、タイ、マレーシアを経てシンガポールに至る)

〔4〕: 中・ロ・アラスカ・カナダ・アメリカ高速鉄道(中国東北地域から北上、シベリアからベーリング海峡を海底トンネルで太平洋を渡り、アラスカに抜け、カナダを通りアメリカまで)[検討中]

■国際的な高速鉄道建設が直面する3つの挑戦

 いくつかの国を超えた高速鉄道建設プロジェクトが提起され、注目を浴びているが、鉄道建設はそれほど容易ではない。
 国際的に高速鉄道を建設する際に少なくとも以下のような3つの挑戦に直面する。

●・巨額な資金をどう集めるか
 ユーラシア鉄道が必要とする資金は天文学的金額に上るという。
 中国一国の政府が負担できるものではないので、沿線国も資金提供の応じなければ実現は不可能と思われる。

●・鉄道の運営
 十数の国を結ぶユーラシア鉄道を、どのように管理するのか。
 国を跨ぐ管理になるため、沿線諸国が運営について意見を一致させるのは非常に難しいと思われる。

●・技術面での困難
 世界最大の大陸であるユーラシア大陸は、高山や険しい渓谷など地質的条件がとても複雑であるため、高速鉄道建設には技術的に大いなる挑戦が必要とされる。

■メキシコでの入札撤回で迫られるリスク評価

 前述のような「挑戦」は実際のプロジェクト実施の前に顕在化しうる問題で交渉を通じてある程度の難題は掌握しうるかもしれない。
 しかし、その先の段階に入ってからもそれぞれの国や事情によってリスクがあることがメキシコで明らかになった。
 博訊網の論評を引用しよう。

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 メキシコのペニャ・ニエト大統領は北京での相互接続に関する会議に参加する直前の11月7日、中国企業が3日に獲得した入札結果を白紙撤回すると発表し、再度入札手続きを行うことを表明した。
 必ずしも中国が再度獲得する可能性が排除されたわけではないが、中国が海外進出する上でのリスクについて全面的に再考する必要に迫られることを意味する。

 中国の野心的な動きは世界の注目を浴びる。
 わずか数年の間に国内の高速鉄道の営業距離は1万1000キロに達しており、これは全世界の高速鉄道の半分の距離に上る。
 中国が建設を進める速度はどんな国にも及ばない。
 資金の裏付けにより高速鉄道建設は野心的に進められ、既に30以上の国との各種の協力表明や協定の調印がなされている。

 高速鉄道未来図が実現すれば、ユーラシア大陸と南北米大陸が繋がり、グローバルな流通網が整うことになり、陸海の地政学的関係が大きく変わる。
 中国は鉄道ネットワークの中心に位置するだろう。
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■コスト度外視で落札獲得を図る?

 しかし、鉄道網整備の前には資金という現実問題が立ちはだかる。
 この点で『博訊網』評論は慎重だ。

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 国際的にも中国の高速鉄道計画は野心満々に見える。
 日・米・欧といった大国は中国の高速鉄道建設に戦略面から警戒感と疑念を持っている。
 事実、中国は海外において全力で高速鉄道プロジェクトを推し進めようとしており、コストを顧みず引き受けることもある。
 これは国際社会の憂慮を裏付ける。
 中国の高速鉄道の背後には戦略的目的があるのではないかという憂慮である。

 メキシコの高速鉄道プロジェクトは、メキシコシティとケレタロを結ぶ全長210キロの路線で、
 「契約額は44億ドル(約5000億円)」
だ。
 中国鉄建と中国南車の連合体とメキシコ企業4社によって組織された企業連合が落札した。
 しかし実はこの入札に最後まで参加したのは中国企業だけだった。
 メキシコ側が求める工期は短く(2014年12月に着工し、2017年に開業)、や提示価格も西側企業の建造コストよりも低かった。
 入札受付がわずか2カ月という短さもあり、西側企業は期間内に建設計画を提示できなかった。

 しかし、中国企業が落札したのはどういうことか。
 結局、中国企業の背後には政府による支援があり、さもなければ中国企業にとって落札は不可能だっただろう。
 44億ドルという費用は国際基準よりずっと低く、中国国内の工事費よりも低い。
 中国北方交通大学の紀嘉倫教授によると、もし国内の建設コストで計算すれば、キロ当たり1億5000万元で、210キロならば
 「少なくとも315億元(約50億ドル)」
かかる計算になる。
 これを
 「海外でのコストで見ると建設総額は69億3000万ドル」
と見込まれるという。

 このように国の資本に依拠して海外に売り込もうという方法にはマイナス要素が容易に見て取れ、未知なるリスクも含まれるだろう。
 ミャンマーでの港湾建設でも同様のことが起きた。
 ミャンマー側が提示した要求は厳しく最終的に中国企業しか残らなかった。
 WTO規定違反のリスクもある。
 コストより低い価格はダンピングの疑いもあり、国際イメージを損ないかねない。
 中国企業が入札参加する国の多くは法制度が整っておらず、治安の悪さもネックだ。
 政変や社会の危機が起きて中止に遭うリスクも小さくない。
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 中国による高速鉄道の海外進出は一見怒涛の勢いだが、その実、こうした記事を読み、中国が推し進めるプロジェクトをよく見てみるとコストや安全性を度外視した鼻息の荒さばかりが目につく。
 こうしたスピード重視の姿勢は中国で高速鉄道を開通させた当初の熱気を思い出さずにはいられない。
 その後起きた悲劇は取り返しがつかないものだったにもかかわらず、いまだ強気の姿勢を持ち続けている。
 しかし、海外に売り込む以上、やはりスピードより人命が一番大事だ。
 「安全第一」という言葉を心に刻んでほしいものである。





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