2014年11月12日水曜日

中国シロウト外交の行き着く結末(4):何故いまさら、「中国は日本に歩み寄る」のか

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レコードチャイナ 配信日時:2014年11月12日 9時58分
http://www.recordchina.co.jp/a97293.html

日中首脳が会談、関係緩和の意義はどこにあるのか―中国メディア

 2014年11月11日、アジア太平洋経済協力(APEC)会議期間中、習近平(シー・ジンピン)国家主席は北京人民大会堂で日本側の要請に応じ安倍晋三首相と会見した。
 これは日中指導者による2年半ぶりの会見となる。
 その前、両国は日中関係の処理・改善に関し、4つの共通認識に達した。

 両国首脳はAPEC北京会議を契機に、会見が実現したことによって、近年重大な難題が生じていた日中関係が緩和に向かう兆候が見えた。
 中国の指導者が今回、安倍首相と会見したのは、両国人民の根本的利益とアジア太平洋地域の平和、安定、発展の大局を考慮したものだ。

 当然ながら、指導者会見の実現によって、日中関係に降り注ぐ雨が止み、晴れ間がさしたわけではない。
 水を凍らせることは容易だが、氷を溶かすことの難しさを知るべきだ。
 ましてや、日中関係のネガティブな局面は長期にわたり存在し、いつ何時、事態が悪化してもおかしくない状況にある。
 承諾を守り共通認識を着実に実行する安倍内閣の誠意が試されることでもある。
 このため、両国関係を脆弱な状態から安定させ、全面的に良好な方向へと進展させるためには、長期的に辛い努力を重ねることが必要になる。
 特に、日本政府は実際の行動で、この得がたい契機を大切にする姿勢を表明する必要がある。

 いずれにしても、世界第二、第三の経済体として、互いに一衣帯水の隣国であることは今後も変わりはない。
 日中が危機管理メカニズムを構築し、両国関係の安定した健全な方向への発展の推進に共同で尽力することが、両国、そしてアジア太平洋および世界の平和、安定、発展にとって重大な利益となり、周辺諸国の安全と協力環境の改善にプラスとなる。
 アジア太平洋の繁栄と活力を保障・活性化し、両国人民の根本的利益と合致するもので、国際社会の普遍的な期待に沿うことでもある。
 これはマルチウィンを実現する動きだ。

 2年余りの日中関係の苦難と困難を振り返ると、中国政府は領土主権を守る揺るぎない意志を示し、核心的利益に関わる問題において動揺が生じ得るといういかなる幻想も打ち消した。
 それだけでなく、中国政府はまた理性的で実務的な行動によって、一定期間にわたって勢いづいた各種の中国脅威論に反論し、平和的発展路線を歩み、アジア太平洋とともに世界の互恵互利・ウィンウィンを目指す固い決意を表明した。
 オーストラリア国立大学の教授、戦略学専門家ヒュー・ホワイト氏は評論で、日中関係の進展は「中国外交の新たな成熟の表れだ」と指摘した。

 面倒は引き起こした当人が解決するよりほかない。
 日中関係に近年、重大な難題が生じている原因について、物事の善悪は誰の目にも明らかであるからだ。
 領土問題にしても、歴史問題にしても、責任はすべて日本側にある。
 特に歴史問題については、回避することは許されず回避できない。
 中国には、樹木は皮を剥がされることを恐れ、人は心を傷つけられることを恐れるという言い伝えがある。
 日本政府が安定した健全な日中関係を真剣に希望するならば、歴史を鑑とし、承諾を守り、中国人民の感情を再び傷つけることのないようにすべきだ。
 歴史を直視してはじめて、未来に向かうことできる。

 現代中国は、平和的発展を心に誓い、互恵ウィンウィンを目指している。
 まさに習近平国家主席が9日、APEC・CEOサミットの開幕式で述べたように、志す事が同じで進む道が一致する相手はパートナーで、大同につき小異を残す相手もパートナーと言える。
 国と国の関係を処理するときに、中国は「友好国以外は敵」という思考方式ではなく、異なる理念に対応する姿勢を維持し、アジア太平洋地域各国とアジア太平洋世紀を共同で切り開くために力を注ぎ、アジア太平洋の夢を創造し、実現する。

 これは、中国の堂々とした大国としての度量と気風であり、中国指導者の大きな構想と大きな知恵でもある。
 アジア太平洋地域の発展のビジョンは、今日の決断と行動によって決定づけられる。
 日中関係が良好な方向に進むことは、まさにそのビジョンに含まれている。

(提供/新華網日本語版・翻訳/呉寒氷・編集/武藤)


 相変わらず言葉は勇ましいが、どうみても中国が日本に歩み寄ったとしか思えない。
 なぜなら、中国としてはこれまでの状態を維持してもいいはずだった。
 なのに首脳会談を受け入れている。
 中国に何があった
のかということになってしまう。
 考えられることは、尖閣問題は
 このままいくら続けてもラチのあく話ではないのでひとまず凍結しておこう、
 そして事情が整ったら再開してもいいのではないか、
という判断ではないだろうか。
 つまり、
 中国には日本を押し切るだけのパワーはない
 中国がいくら脅しても、日本は引き下がらないだろう。
 物理力行使に踏み切ったとしても、逆に日本はキバを向いて歯向かってくるだろう。
 これでは獲るものが何もない。
 ここに意を注ぐのは「力の無駄遣い」になる。
 それよりも、国内問題、ウイグル地区やチベット地区が火種になりつつある。
 さらに、経済問題・環境問題・汚職問題など国内問題が山積して、一触即発になりつつある。
 それに傾注したほうが効率がいい、そんな決定があるのではないだろうか。


WEDGE Infinity 日本をもっと、考える  2014年11月14日(Fri) 
佐々木智弘 (防衛大学校人文社会科学群国際関係学科准教授)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4441

APECホスト国としての中国のこだわり

 2014年11月10日、2年5カ月ぶりに日中首脳会談が開かれた。習近平国家主席と安倍晋三首相の会談は初めてである。
 この会談を実現するために、7日、楊潔篪国務委員と谷内正太郎国家安全保障局長の会談で、「4つの原則共通認識」が合意された。

 2012年8月の日本政府の尖閣諸島国有化宣言以降、日中首脳会談が開かれることなく、中国が日本に対し厳しい姿勢をとってきた。
 そして『人民日報』をはじめとする公式メディアもそのことを伝えてきた。
 それが一転して日中首脳会談の開催となった。
 なぜ、中国は態度を変更して、日中首脳会談を開催したのだろうか。
 そのヒントを得るために、『人民日報』がこの日中首脳会談前後の動向をどう報道してきたのか見てみたい。

■3面下側で報じた人民日報の抑制ぶり

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【11月7日、楊国務委員が谷内国家安全保障局長と会談】
 11月8日付『人民日報』は3面で、会談を次のように報じた。

 「楊潔篪は次のように指摘した。
 周知の原因により、日中関係はいまだに深刻な困難の局面に直面している。
 ここ数カ月、両国は外交チャンネルを通じて日中関係の政治的障害を克服しようと度重なる協議を行ってきた。
 中国は厳正な立場を重ねて表明し、日本に歴史、釣魚島(尖閣諸島のこと―筆者注)など重大で敏感な問題を直視し、適切に処理し、中国と両国関係の改善、発展を共同で努力して進めるよう求めてきた」
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 両者が合意した4つの原則共通認識は以下のとおりである。(以下は日本外務省のホームページ
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/c_m1/cn/page4_000789.html をもとに筆者が一部修正)

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1 双方は,日中間の4つの政治文書(日中共同声明、日中友好条約、日中共同宣言、戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明)の諸原則と精神を遵守し,日中の戦略的互恵関係を引き続き発展させていくことを確認した。

2 双方は,歴史を直視し,未来に向かうという精神に従い,両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干(中国語で「一些」)の認識の一致をみた。

3 双方は,尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し,対話と協議を通じて,情勢の悪化を防ぐとともに,危機管理メカニズムを構築し,不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた。

4 双方は,様々な多国間・二国間のチャンネルを活用して,政治・外交・安保対話を徐々に再開し,政治的相互信頼関係の構築に努めることにつき意見の一致をみた。
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 「楊潔篪は次のことを強調した。
 両国は、上述の共通認識精神に沿って、日中関係の政治的基礎を守り、両国の正確な発展方向を理解し、直ちに敏感な問題を適切に処理し、実際の行動をもって日中の政治的相互信頼を構築し、両国関係が徐々に良性の発展軌道を歩むよう進めなければならない」
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 中国各紙はこの記事を1面で報じたようだが、『人民日報』は3面の下側で報じるという抑制ぶりを見せたことには注目しておかなければならない。
 後で述べるように、
 日中首脳会談開催が習近平にとってリスキーなものである
ことを、この時点ですでに見て取ることができる。

 この記事は、楊潔篪が日中首脳会談開催に向けて、
★.この数カ月間外交努力を続けてきたこと、
★.ネックとなっていたことが歴史認識問題と尖閣諸島をめぐる領有権問題にあること
を明らかにした。
 しかし、改善を決して急いではないことも明らかにしており、すべては日本の出方次第という従来のスタンスを繰り返している。

■中国の満足感と国内の反応への配慮

【無署名論評「4つの原則共通認識をしっかりと守る必要がある」】

 同じ8日付『人民日報』3面には、無署名の関連論評が掲載された。主な内容は以下のとおりである。

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 「周知の通り、この4つの政治文書は日中関係の政治的基礎であり、その核心的精神は両国指導者による歴史問題、台湾問題、釣魚島問題などで達成した重要な共通認識と了解から構成され、高度な政治的智恵を体現した」

 「日中関係で毎回出現するトラブルをよく見てみると、日本の一部の人による日中の4つの政治文書の原則と精神に対する深刻な違反を見て取ることができる」

 「日中が初めて釣魚島問題を文字化し明確な共通認識に達し、釣魚島など東シナ海海域で近年出現している緊張した状況をめぐり異なった主張が存在することを承認し、対話、協議を通じて情勢悪化を防止し、危機管理メカニズムを構築し、不測の自体の発生を回避することで同意した」

 「日中関係の現在の政治的膠着状態の起点を振り返ると、『島の購入』という茶番の殺傷力が極めて大きかったことを見て取ることができる。
 今、十分な智恵と実情に合った行動でこの日本によって放たれた虎を檻の中に戻すだけである」

 「当面、日中両国人民は双方が4つの原則共通認識を厳守することを基礎に、順を追って進め対話を再開し、徐々に日中関係を改善し、長期的で健全な安定した発展を実現する」
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 論評は、この4つの原則共通認識を過去の4つの政治文書同様に「高度な政治的智恵」と評価していることを示唆している。
 それは歴史認識問題、尖閣諸島の領有権をめぐって、日中双方がいかようにも解釈可能な言い回しになっていることを指している。

 また、今に至る関係悪化の原因が一方的に日本側にあると明言している。

 「釣魚島」の初の文字化に言及したことは、4つの原則共通認識の中に「釣魚島」という文言が盛り込まれたことへの中国側の満足感を表している。
 その直後に「日中関係の現在の政治的膠着状態の起点を振り返ると、『島の購入』という茶番の殺傷力が極めて大きかった」と言及し、2012年8月の日本政府の尖閣諸島国有化宣言を厳しく非難している。
 このことは、4つの原則共通認識の中に「釣魚島」の文言が盛り込まれたことで、両国のあいだに尖閣諸島をめぐる領有権問題が存在することを日本が認めたと中国側が解釈していることを意味している。
 これが中国側の「満足感」である。

 とりわけ興味深いのは、この論評に署名がないことだ。
 この種の論評にはたいてい、「新華社」や「本報(『人民日報』のこと―筆者注)評論員」や「本報記者」、専門家の実名、または「鐘声」といったペンネームの署名が入る。
 しかし、この論評には署名がない。

 日本寄りの内容には思えないが、このご時世ではどのように解釈されるか分からない。
 署名を入れないことで、特定の筆者が批判を受けるリスクを回避しようとしたのだろうか。
 それほど中国側は4つの原則共通認識で合意したことに対し中国国内の反応に敏感になっているということだろう。

■特異だった日中首脳会談

【11月10日 習国家主席が安倍首相と会見】

 11月11日付『人民日報』は2面で、会見を次のように報じた。

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 習近平国家主席は10日、人民大会堂で申し出に応じてAPECサミットに出席した日本の安倍晋三首相と会見した。

 この2年日中関係に深刻な困難が出現したことは理非曲直(道理に合っていることと外れていること)がはっきりしている。
 双方はすでに日中関係を処理、改善する4つの原則共通認識を発表している。
 日本がしっかりと共通認識の精神に沿って関連問題を適切に処理することを希望する。

 歴史問題は13億以上いる中国人民の感情に関わることであり、この地域の平和、安定、発展の大局に関係している。
 日本が日中二国間の政治文書と「村山談話」などの歴代政府が出した承諾を守ってこそ、アジアの隣国と未来志向の友好関係を発展させることができる。

 安定した健全な日中関係は時代の進歩の潮流に順応すべきである。
 日本が引き続き平和発展の道を歩み、慎重な軍事安全政策をとり、隣国の相互信頼に有利な行動をとり、地域の平和安定を守るために建設的な役割を果たすことを希望する。
<<<<<

  『人民日報』は、習主席が安倍首相と会見したことを、この日韓国大統領、ベトナム国家主席、ブルネイ国王、マレーシア首相、パプアニューギニア首相ら5カ国の要人と会見したこととセットで報じた。
 しかしその報じ方から、
 習主席と安倍首相の会見が特異なものであったこと
が分かる。

 第1に、習主席と他5国要人のツーショット写真はそれぞれ背景に両国の国旗があるが、安倍首相とのツーショット写真の背景に両国の国旗はない。

 第2に、他5カ国要人とは「会見」を行ったとしているが、安倍首相とは中国語で「応約会見」と表記され、「申し出に応じて会見した」とされた。
 さらに安倍首相だけ「APEC首脳会談に出席した安倍首相」とわざわざ説明している。

 第3に、他5カ国要人との会見には、中央政治局委員の王滬寧と栗戦書、国務委員の楊潔篪が同席しているが、安倍首相との会見には楊潔篪しか同席していない。

■ホスト国として実現せざるを得なかったという体へのこだわり

 中国は、APEC首脳会議での日中首脳会談を特別なものとして扱おうとした。
 国旗を掲げず、安倍首相側からの申し出に習主席が応じたものであり、実務担当の楊国務委員しか同席させない。
 『人民日報』をはじめとする公式メディアは日中首脳会議を儀礼的会談にすぎないものかのように報じた。
 習近平はAPEC首脳会議のホスト国として日中首脳会談を開いたにすぎないという体を貫いた。

 4つの原則共通認識を作成しなければならなかったのも、
 この体を貫くための中国側の苦肉の策である
ように思われる。
 4つの原則共通認識は、第2番目で歴史認識問題、とりわけ安倍首相が靖国神社参拝をしないと約束したから、第3番目で日本が尖閣問題をめぐる領有権問題の存在を認めたから首脳会談に応じたのだと中国側が言えるための措置である。
 その意味で
 4つの原則共通認識は中国にとってより必要なものだった
と言える。

 それはこれまで応じなかった安倍首相との会談に応じたことで、
 国内世論、そして習近平の政敵に批判されないための予防線を張る
ためである。
 それほどまでに日中関係は中国で国内政治と直結している。
 周永康問題にケリをつけ、
 党内での権威づけに成功した習近平にとってさえも、日中首脳会談の開催はリスキーなもの
だった。

 習近平は日中首脳会談で「村山談話」に言及した。
 これは4つの原則共通認識の合意を越えた発言のように思われる。
 また習近平は尖閣問題を示唆する言及はせず、代わりに日本の安全保障政策に注文をつけている。
 日中間の懸案事項は尖閣問題よりも、むしろ歴史認識問題や安全保障問題であることを示唆している。

 中国側はAPEC首脳会議のホスト国として日中首脳会談を開いたにすぎないという体をとっている。
 長らく途絶えていた日中首脳会談開催のタイミングはAPEC首脳会議しかないと中国は考えていただろう。
 しかし、これがホスト国だからなのか。 
れとも日中首脳会談を開かなければならなかった真の理由があるのか。

 中国の経済状況の悪化により日本との経済交流への期待からなど色々な憶測は出ているが、説得力のある説明は見当たらない。 
 実は、その点を理解しなければ、中国の今後の出方を見極めることはできない。
 習近平の発言からは、日中間だけの理由ではなく、米国を含めた外交戦略上や安全保障上の観点からその意図をくみ取らなければならないように思われる。
 しかし、会談は終わったばかりで、中国の真の意図を知るためにもうしばらく時間が必要だ。


 現在の状況は、
1].「2/3世紀にわたって寝ていた子を、無理やり起こし」、
2].「お詫びと反省の国」を「普通の国」に追いやり、
3].あいまいに棚上げされていた尖閣諸島を国際法を盾に「日本領土宣言」させてしまった
というとんでもない外交ミスを連発したばかりに、中国は窮地に立たされてしまっている、ということである。
 やることなすことウラ目に出ているとなると、これでは、
 どう動いていいのかわからない、
ということになる。
 今はただじっと我慢して、時の流れるのを待っているしか打つ手がない。
 日本問題が国内問題に直結してしまうということは、力で抑えられない相手がそばにいる不安に蝕ばまれるという苛立ちになる。
 傲慢というパワーが通じない相手に直面したとき、
 中国はひたすら殻に閉じこもりダンマリを決め込む
ことになる。
 外交経験のない新興国によくある放心状態である。
 思ったように動いてくれない相手には、どう対応したらいいのか、それがわからない。
 まだまだ、シロウト外交は続くことになる。
 体裁やメンツが価値基準の中国にあっては、
 シロウト外交がクロウト外交に変化することはない、
のかもしれない。


2014.11.12(水)  The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42184

中国の東アジア企業:政治的緊張に隠れた依存関係
(英エコノミスト誌 2014年11月8日号)

 台湾、日本、韓国は中国本土で膨大な数の中国人を雇っている。

 中国は奇妙なことに、
 東アジアの隣人とうまく付き合うのに苦労する国
だ。
 強硬な領有権の主張やその他の高圧的な態度で多くの近隣国の感情を逆なでする。

 だが、政治的な緊張は、東アジア地域の緊密な経済関係、特に、驚くほど多くの中国人が本土で東アジア企業に雇われているという事実を見えにくくしている。

 直近の集計では、
★.8万8000社に上る台湾企業が1560万人の中国人労働者を雇っていた。
★.およそ1100万人が2万3000社の日本企業やそのサプライヤー企業に雇われている。
★.ここに韓国企業で働く200万人
を加えると、問題を抱えた
★..東シナ海周辺の企業は、3000万人に迫る中国人を雇っている
ことになる。

注].台湾 1,560万人
   日本 1,100万人
   韓国  200万人
  ----------------------------
    計 2,860万人

■出稼ぎ労働者の重要な働き口

 こうした中国人の大半は、もちろん、工場で働いている。
 一部の企業の労働条件は批判を浴びるようになった。
 最も有名な例が、アップルやその他ハイテク企業のために商品を生産する台湾の鴻海精密工業(通称フォックスコン)だ。
 同社は中国最大の外国雇用主でもあり、100万人という驚異的な数の中国人労働者を抱えている。

 独立した労働組合に友好的だったためしのない中国当局だが、時折、日本の自動車メーカーを含む外国資本の工場でのストや労働争議を容認してきた。
 時として、これは中国での事業展開を若干リスキーなものに見せる。
 中国で反日感情が燃え上がった時には、複雑に入り組んだ地域のサプライチェーンが突如脆く見える。

 だが、中国は外国企業のこうした雇用が必要なことを知っている。
 こうした仕事の大多数は中国の地方から出てきた出稼ぎ労働者が担っている。
 2012年には、およそ1億6300万人が出身地域の外で働いていた。
 政府は普段から、落ち着きのないこの集団が失業したら何が起きるか心配している。

 実際には、多くの中国人は外国企業で働くことを好む。
 外国企業は地元企業と同じくらい(多くの場合は地元企業以上に)しっかり中国の労働規則を守る。
 給料もかなりいい。

 また、概して、これらの企業は採用し続けている。
 台湾のコンサルティング会社、中華徵信所(CCIS)が台湾の上位企業1000社を対象に行った調査では、各社の従業員が5年前と比べ平均8%増加していることが分かった。

■急減する日本の対中投資、雇用者数も減少へ向かう懸念

 2005年に中国各地の都市で暴力的な反日街頭デモが起き、日本製品の不買運動を求める声が沸いたにもかかわらず、最近までは、日本企業も着実に雇用を増やしていた。

 しかし最近、日本企業が他のアジア諸国に投資するようになると、日本の対中投資が減り始め、昨年は4割近く減少した。
 これに伴い、日本企業の中国の従業員も減る可能性が高い。

 これだけでも、中国の習近平国家主席が北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場で、1年以上口をきいていなかった日本の安倍晋三首相と仲直りする十分な理由になったろう。



2014.11.10(月)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42168

日中首脳会談、緊張緩和なるか?
習近平国家主席と安倍晋三首相のそれぞれの立場
(2014年11月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 習近平氏が2009年に中国国家副主席として来日した際、直前になって天皇陛下との会見を求めた。
 1カ月前までに会見を申請するよう求める宮内庁の規則にもかかわらず、日本政府は慣例を破り、拝謁を認めた。

 中国の次期指導者としての習氏の重要性と、修復に向かっている関係を生かしたいという望みを反映した異例の措置だった。

 あれから5年。
 両国関係があまりに悪いため、日本の外交官たちは、中国政府が11月10~11日にアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を主催する際に安倍晋三首相と習氏との初の首脳会談を実現させようと、土壇場になってもなお懸命に努力していた。

 強く、国家主義的な指導者が両国を治めているため、アジアの2大大国は多くの問題を巡って角を突き合わせている。
 最も危険な対立の争点は、東シナ海に浮かぶ尖閣諸島だ。

■初会談への期待と不安

 中国で反日的なレトリックが最近トーンダウンしていることも含め、会談が実現しそうな兆しは現れていた。
 一部の専門家は、習氏は、安倍氏と会うのを拒むことで、APEC首脳会議――中国で今年最大の目玉となる国際的イベント――に味噌をつけたくはないと言う。

 悲観的な向きは、会談は儀礼的な握手と大差ないものに終わるかもしれないと警告する。

 だが、一方では、両者は2年間の緊張状態の後で、相互の根深い相違の先を見ることができると期待する向きもある。
 この2年間で、日本は防衛費を増やし、中国の台頭に対抗するためにインドやオーストラリアと連携を強化してきた。

 「中国は自らを孤立させることで戦略的なミスを犯している」。
 安倍氏をよく知る日本の元外交官、宮家邦彦氏はこう話す。
 「我々は変貌しつつある。
 以前より集団的、多角的な同盟ネットワークを築く方向に傾いている。
 日米同盟では十分でないと思っている」

 中国は安倍氏のことを、日本の軍事的過去を否定したいと願う修正主義者として描くキャンペーンを繰り広げてきた。
 一方、安倍氏は東南アジア諸国を訪問し、やはり中国との海洋紛争に対処する各国に支援の手を差し伸べてきた。
 米国は、中国との対立に自国が巻き込まれかねない紛争の可能性を懸念している。

 朝日新聞の元主筆、船橋洋一氏は、
 アジアは今、日本が1894~95年の日清戦争で中国を破った時と性質がよく似た「地殻変動」を目の当たりにしている
と話す。

 日清戦争での勝利とその10年後のロシアに対する勝利は、日本を1世紀にわたるアジア支配に導いた。
 だが、30年に及ぶ比類なき成長によって力をつけた中国は立ち直り、この地域でかつて占めていた地位を取り戻しつつある。

■アジア・ナンバーワンの地位

 「日本がこの新しいパワーシフトに適応するのは、心理的、政治的に非常に難しい」
と船橋氏は言う。
 「日本は『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を一度も信じなかったが、
 『アジアにおけるジャパン・アズ・ナンバーワン』は信じてきた。
 これは日本にとって不快な目覚めだ」

 約2年の間、日中両政府間の意思疎通は極端に少なく、両国が安全保障から貿易に至るまで多くの重要問題に取り組むのを妨げてきた。
 2012年に中国で起きた反日デモは日本の対中投資を大幅に減らし、
 投資額は今年33%減少している。

 物議を醸す靖国神社を頻繁に参拝することで中国を激怒させた小泉純一郎元首相の外交顧問を務めた外交評論家、岡本行夫氏は、日中関係は「1972年の国交正常化以降で最悪」だと話している。

■習近平国家主席、国内の圧力から、態度を変える余地は小さい

 中国の習近平国家主席は今年9月、第2次世界大戦終結の69周年を記念する演説で、戦時中の残虐行為を否定し、「侵略と植民地主義を美化する軍国主義の」日本人を激しく非難した。

 「中国の人民は海や空よりも広い心を持っているが、我々は決して目に砂が入るのを許すわけにはいかない」
と習氏は述べた。

 それから数週間後、このメッセージを見落とした人がいた場合に備え、習氏は中国軍に
 「地域戦争を戦い、勝つ」準備をするよう奨励した。

 2012年暮れに最高指導者の地位を引き継いで以来、
 習氏は
★.臆面もない国家主義と
★.日本に対する敵意
を自身の外交政策の中核的な教義に据えてきた。
 中国の温家宝前首相は日本の首相と野球をして写真撮影のためにポーズを取ったが、習氏は全力を尽くし、安倍氏と同じ部屋にいるのを人に見られないようにしてきた。

 中国の指導者は部分的にはスローガンを通して国を統治するものだし、習氏は自身の「中国の夢」理論を「中華民族の偉大な復興」として明確に定義している。
 これは、日本のような帝国主義の元侵略国に与えられた屈辱を消し去ることを意図したものだ。

■日本に対する敵意、個人的なものか、国内向けのパフォーマンスか?

 「中国は、習氏の指揮下で、日本との付き合いに関してずっと厳しくなった。
 海洋(領有権)問題にかけては、特にそうだ」。
 上海の復旦大学で歴史学を教える馮瑋教授はこう言う。

 一見すると、この敵意は個人的なものに見える。
 習氏は「太子党」で、父親は「日本の侵略に抵抗する中国人民の戦争」(中国では、第2次世界大戦は抗日戦争として知られている)の有力な共産党司令官だった。

 習氏は戦いで鍛えられた共産党エリートと、
 1930年代、1940年代に中国の大部分を征服した侵略者「小さな海賊(海乱鬼、倭寇)」への憎悪を教え込まれたその子供たちに囲まれて育った。

 中国の政策立案者や外交官は、日本に対する態度を含めた外交問題について、習氏がめったに他の指導者や共産党の年長者に相談しないと不満をこぼす。

 だが、習氏の個人的な態度に関するさまざまな証拠は相矛盾している。
 最高指導者に上り詰める前、習氏は日本の外交関係者の間で、日本に対する深い理解があることで知られていた。
 同氏は公務で少なくとも4回日本を訪問している。
 直近の来日が2009年だ。

 「当初、日本の多くの政府高官と外交官は、習氏が最高指導者になることを非常に喜んでいた。
 多くの人は、習氏と仕事をして非常に好感を持った」。
 ある日本人外交官はこう話す。
 「多くの人は、習氏の今の敵意は、
 国内の中国人に向けた国家主義的なパフォーマンスだと考えている」

■反日感情を自身の権力基盤を固める手段として利用

 習氏が最高指導者の座に就いたのは、東シナ海での領有権紛争を巡る政府公認の大規模反日デモの真っただ中のことだった。

 中国の政治アナリストらは、
 習氏はこの問題を、自身の権力基盤を固める政治的手段として利用した
と言う。

 過去2年間で、中国は数十に上る戦争記念館・記念碑を建て、抗日戦争での重要な戦いを記念する新たな祝日を制定し、映画館やテレビを暴力的な反日戦争ドラマであふれかえらせた。

 特に危険な動きとしては、東シナ海の無人島周辺の係争海域に正規海軍と準軍事組織の警備艇を送り込み、同地域の上空に一方的に防空識別圏の設定を宣言した。

 習氏は前任者よりもはるかに強硬な外交政策を打ち出した。
 一部のアナリストはこれを、東シナ海から米国を追い出し、日本を弱小国の地位に追い落とす試みとして解釈した。

 「中国は他国を服従させる具体的な政策を考え出したわけではないが、指導部は間違いなく、中国はアジアのナンバーワン国家として認識されるべきだと考えている」。
 中国人民大学米国研究所の時殷弘所長はこう話す。

 「実際問題としては、これは
 中国が日本より力があることを示さなければならない
こと、
 そして
 米国政府にアジア地域における自国の優位性を認めてもらう必要がある
ことを意味している」

 習政権は国家主義を強める手段として反日感情を煽ったが、そこには宥和の要素もあった。

 1989年の天安門事件の後、中国は「愛国教育」課程を導入した。
 特に日本に重点を置き、外国の侵略者の手によって中国が受けた「100年の屈辱」を強調したカリキュラムだ。

■日本に甘い態度を見せれば、政権が不安定になる恐れ

 現在、アジアの大半の国が中国の強硬路線と執拗な領有権の主張を不安げに見つめる中で、
 中国国内のプロパガンダは、軍国主義の過去を甦らせている日本に対し、
 中国政府が他のアジア諸国と連帯して対応しているという構図を描いている。

 その結果、特に若い中国人の間では、親日感情を口にすることは往々にして、西側諸国で敵意に満ちた人種差別や反ユダヤ主義の見解が受け止められるのと同じように受け止められる。
 その意味で、日本政府高官でさえ、
 習氏が関係を改善させる余地が極めて小さいこと
を認めている。

 「習氏の政権はかなり安定していて、彼は一種の皇帝のような地位を築いたが、なんでも好きなことができるわけではなく、身動きの余地がない分野がいくつかある」。
 前出の日本人外交官はこう語る。
 「日本は、そうした分野の1つだ。
 習氏が日本に甘い態度を取れば、政権が不安定になりかねない」

■安倍晋三首相、重要問題に関する柔軟性のなさが関係改善努力の障害に

 アジアで最も重要な日中両国の関係リセットに向けた日本の努力が勢いを増す中、安倍晋三首相は6日、国家安全保障担当の顧問を中国に派遣した。

 ベテラン外交官で、2006年に安倍氏が首相に就任した後の画期的な訪中実現に貢献した谷内正太郎氏の派遣は、APEC首脳会議の場で中国の習近平国家主席との会談実現を目指す努力の一環だった。

 専門家らは、公の場で握手するだけでも日中関係を改善させ、両国の政府高官に対し、両首脳は外交から貿易に至るまで、重要な問題に関する議論を再開できるというメッセージを送ることになると話している。

 日本では、事態は一刻を争うと言う人もいる。
 「ベクトルは来年悪化する方向を指しているため、習近平氏と安倍氏が会談することが非常に重要だ」。
 元外交官の岡本行夫氏はこう言う。
 「中国は日本の帝国主義に勝った抗日戦争勝利の70周年記念に焦点を合わせたキャンペーンを開始しようとしている」

■尖閣諸島を巡る緊張

 安倍氏が2012年に首相の座に返り咲いた時、専門家は論争の的になっている尖閣諸島(中国名:釣魚島)を巡り、日中両国が衝突する可能性を危惧した。

 安倍氏の首相就任の数カ月前、尖閣諸島の一部を民間の所有者から買い上げることにした日本政府の決断に対し、中国で暴力的な反日抗議デモが勃発した。
 この論争の結果、外交関係は冷え込み、中国の指導者との会談の可能性が絶たれた。

 2006年と比べると、ムードはこれ以上ないほど大きく異なる。
 あの当時、安倍氏は国家主義の新首相として中国との関係改善に大きな努力を払い、批判的な勢力を感心させた。

 安倍氏に近しい関係者の話によると、中国との関係について、安倍氏は自分が前回やめたところから再び始めたかったが、尖閣諸島を巡る中国の態度がそれを不可能にしたという。

 日本政府は尖閣諸島の国有化を擁護し、その狙いは、右派で反中の石原慎太郎東京都知事(当時)が島を買い上げ建物を建てることで現状を変えるのを防ぐためだったと述べた。

 だが、中国政府は日本を激しく非難し、尖閣諸島に向けて船を送り込み始めた。
 尖閣諸島周辺では、中国船がどんどん日本の領海に侵入し始めた。

 安倍氏は今年5月、シンガポールで、アジアと米国の防衛担当者に向けた大して婉曲とは言えない演説で、国家は領有権の主張を通すために「力や威圧を用い」てはならないと述べ、中国を批判した。
 また、東南アジア諸国に対し、脅してくる勢力に立ち向かう助けになると示唆した。

■首相としての靖国参拝への願望

 だが、北京の政府高官は安倍氏のことを、2013年12月に靖国神社を参拝することで中国を激怒させた修正主義の指導者と見ている。
 240万人の日本の戦没者を祀る靖国神社は、そこにA級戦犯14人の「魂」も含まれているために、依然物議を醸す存在になっている。

 2006年当時、安倍氏は「戦略的曖昧さ」という方針を維持した。
 戦略的曖昧さとは、あえて問題に言及しないことで、日中両国が意見の相違――特に靖国に関する相違――を取り繕えるようにするものだ。

 2013年12月の靖国参拝に先駆けて、対中関係は好転し始め、中国政府高官は日本の政府高官との協議を再開していた。
 だが、安倍氏の靖国参拝によって、関係改善への道が一切閉ざされた。

 大部分において強い日本の指導者の存在を歓迎するオバマ政権は激怒した。
 というのも、米国と日本が――韓国の助けを得ながら――中国に対抗できるようにするための努力を安倍氏が台無しにしていると感じたからだ。

 安倍氏の側近らによると、同氏は2006年に首相として靖国神社を参拝する願望を犠牲にしたと感じており、中国自身が尖閣諸島で緊張を高めているために、再び自分の望みを犠牲にする気になれなかったのだという。

 靖国参拝は日本の国家主義者たちに称賛されたが、批判的な向きは、安倍氏は今度も日本の国益のために自分の願望を脇に置いておくべきだったと考えている。

 岡本氏は、靖国神社は戦争神社ではないが、安倍氏は「戦術的な理由」で参拝を見送るべきだったと話している。

 だが、靖国参拝は関係を悪化させた唯一の出来事ではなかった。
 同じ2013年に、安倍氏は機体に「731」という数字がペンキで書かれた戦闘機のコックピットでポーズを取った。

 中国はこれを戦争の傷跡に塩を塗り込む行為だと考えた。
 この数字は、中国人に生物・化学実験を行った悪名高い日本軍の部隊の名前だったからだ。

 日本の専門家らは、あれはただの写真撮影の不手際だったと言うが、歴史修正主義者に安倍氏が共感しているという不安を高めることになった。

 中国は首脳会談に2つの条件をつけた。
 1つは、日本が尖閣諸島について領土問題が存在することを認めること。
 もう1つは、安倍氏が中国政府に対し、今年は靖国神社を参拝しないことを確約することだ。
 ただ、日本政府側は、この条件は行き過ぎだとの考えを示唆している。

■日本が模索する「奇妙な均衡」

 安倍氏の考えをよく知るある人物は、日本は両国が尖閣諸島に関する立場を保てるような状況を生み出そうとしていると言う。
★.中国は船を周辺海域へ送り込むことで現状を変えたが、
★.日本は領土問題が存在することを認めるのを拒み、そのため尖閣諸島の未来について交渉しない。

 「中国側はこれで自分たちの任務は完了したと言えるし、
 日本側は相手に何も譲らなかったと言える」。
 この人物は、そのような取り決めについてこう語る。
 「双方とも好きなことを言える・・・これは奇妙な均衡だ」

By Demetri Sevastopulo and Jamil Anderlini
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